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Mizuno(ミズノ)社製ゴルフシューズのソール交換修理について

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Mizuno(ミズノ)社製ゴルフシューズのソール交換修理について

Mizuno(ミズノ)社製ゴルフシューズのソール交換修理について

2026/03/05

はじめに:一足のゴルフシューズとの出会い

今回、宮崎県のF様からお預かりしたゴルフシューズは、Mizuno社の製品でした。Mizuno社は日本を代表する総合スポーツメーカーであり、特にそのモノづくりに対する真摯な姿勢と高い技術力は、ゴルフの世界でも世界中のプレーヤーから厚い信頼を寄せられています。このお預かりしたシューズも、上質なアッパー(甲被)素材が使用されており、お客様がこれまで丁寧に手入れをされ、幾多のラウンドを共にしてきた歴史が感じられる、愛着の深さが伺える一足でした。

しかし、ゴルフシューズにとって最も重要な「足元」の状態は、時の流れと、避けがたい素材の特性によって、深刻な問題を抱えていました。

いずみ靴店

お客様の靴に込められた思い出や愛着をしっかりと受け止めながら、心を込めて修理を行っております。一足一足に真心を込めた作業を通じて、思い出の詰まった大切な靴が持つ新たな一歩をお手伝いいたします。

いずみ靴店

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岡山県倉敷市玉島阿賀崎2丁目6−46

086-526-3398

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基本的にはお問い合わせフォームへご連絡をお願いいたします。

第1章:診断 – 加水分解という「時限爆弾」

修理をお引き受けする際、最初に行うのが入念な状態診断です。このシューズにおける最大の問題点は、靴底全体(ソールユニット)を構成している「塩ビ(ポリ塩化ビニル)系」素材の劣化でした。

ゴルフシューズに限らず、スポーツシューズやスニーカーのソールには、クッション性や成形のしやすさから、特定の樹脂素材が頻繁に使用されます。しかし、これらの素材の中には、空気中の水分と反応して分子構造が破壊される「加水分解」という現象を起こしやすいものがあります。F様のお預かりしたシューズのソールは、まさにこの加水分解が進んでおり、素材そのものが弾力を失い、脆(もろ)くなっていました。

一見しただけで分かるほど、ソール全体に無数のヒビ割れが入っており、一部はすでに欠け落ちている状態でした。この状態では、当然ながらゴルフのプレーに耐えることはできません。無理に履けば、スイング時の強烈な負荷によって、ソールが完全に崩壊し、怪我に繋がる恐れもあります。

また、当初はこの劣化したソールに埋め込まれている、スパイクピン(鋲)の台座部分の再利用も検討しましたが、診断の結果、これは不可能であることが判明しました。台座を支える周囲のソール素材があまりに脆く、新しいピンをしっかりと固定するだけの強度が残っていなかったためです。これにより、元通りのスパイクシューズとして再生することは断念せざるを得ませんでした。

しかし、ここで修理を諦めるのではなく、私たちはF様に、全く新しい選択肢をご提案しました。それが、現代のゴルフシューズの主流となりつつある「スパイクレス化」へのカスタムです。

第2章:解体と再生への準備 – 職人の手仕事

スパイクレス化への第一歩は、古くなり、役目を終えた劣化したソールを完全に「分解」し、「取り除く」ことから始まります。

この工程は、非常に繊細です。加水分解して脆くなったソールは、剥がす際に砕けてしまいやすく、アッパー部分にその破片や、頑固にこびりついた古い接着剤が残ってしまうことが多いからです。私たちは、特殊な工具と職人の熟練した指先の感覚を頼りに、アッパー(革や人工皮革など、靴の上の部分)を傷つけないよう慎重に、時間をかけて古いソールを一つ一つ手作業で除去していきました。

単に剥がすだけでなく、アッパーとソールの接合面を、新しい接着剤が強固に付着するように平滑に整える「バフ掛け(研磨)」という工程も、この段階で行います。この「下地作り」こそが、新しいソールの耐久性を左右する、極めて重要で気の抜けない作業です。古い接着剤や、素材の残骸が少しでも残っていると、新しいソールの剥がれに繋がるため、目に見えないレベルまで徹底的にクリーニングを行いました。

第3章:積層の構築 – ミッドソールの縫い付けとヒール形成

古いソールが完全に除去され、清められたアッパーが現れると、次は新しい靴底の基盤となる「ミッドソール」の構築に移ります。

今回の修理では、スパイクピン(鋲)の台座を失ったため、単にアウトソール(外底)を貼るだけでは、必要なクッション性や、ゴルフに適した足の保護機能、そして正しい姿勢を保つための「ヒールの高さ」を確保できません。そこで、私たちは「EVAスポンジ」という素材を採用し、ミッドソールを新たに作り直すことにしました。

EVA(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂)スポンジは、軽量でありながら優れたクッション性と弾力性を持ち、水にも強く、耐久性が高い、スポーツシューズのミッドソールとして最適な素材です。私たちは、F様のシューズのアッパー形状に合わせ、EVAスポンジを最適な厚さに切り出し、成形しました。

そして、この新しいミッドソールをアッパーに接合する際、単に接着剤で貼るだけでなく、より強固な結合を実現するために、専用のミシンを用いて「縫い付け」の工程を行いました。この縫い付けにより、スイング時や、コースのアップダウンを歩行する際の激しい負荷がかかっても、ミッドソールがアッパーから剥がれることがない、非常に高い耐久性を確保しています。

さらに、ミッドソールを縫い付けた後、EVAスポンジを積層させることで、踵(かかと)部分の「ヒール」を形成しました。ゴルフにおけるアドレス(構え)や、スイング中の体重移動において、踵の高低差(ドロップ)は非常に重要です。Mizuno社が本来意図した設計、そしてF様が慣れ親しんだ履き心地を損なわないよう、元々のソールのヒール高を正確に計測し、EVAスポンジを削り出すことで、その高さを正確に再現しました。

第4章:Vibram419Cソールの採用 – 現代のテクノロジーを融合

基盤となるミッドソールとヒールが完成し、いよいよ最後にして最も重要な工程、アウトソール(外底)の貼り付けです。

スパイクレス化にあたり、私たちがF様にご提案し、採用したのが、「Vibram(ヴィブラム)419C」ソールです。

Vibram社は、イタリアに本社を置く、世界的に有名な高性能ラバーソールのメーカーです。登山靴からスニーカーまで、あらゆる過酷な環境でその性能を発揮するソールを開発しており、その品質と信頼性は世界中で認められています。

今回採用した「Vibram419C」は、Vibram社がゴルフシーンのために開発した、高性能なスパイクレス・アウトソールです。その特徴は以下の通りです。

優れたグリップ力(トラクション): スパイクピン(鋲)の代わりに、ソール表面に独自に配置された「多方向への突起(ラグ)」が、芝を強力に「噛む」ように設計されています。これにより、スイング時の強力な捻じれに対しても、地面にしっかりと足を踏ん張ることができ、滑りを抑制します。

快適な歩行性: スパイクピンがないため、アスファルトやカート道、クラブハウス内を歩行する際も、地面からの突き上げ感がなく、スニーカーのような快適な履き心地を提供します。

軽量性: スパイク台座やピンの重量がないため、全体として非常に軽く仕上がり、18ホールをラウンドした後の足の疲労を軽減します。

耐久性: Vibram社独自の高品質なラバーコンパウンドは、耐摩耗性が高く、長い期間にわたってそのパフォーマンスを維持します。

私たちは、形成したEVAミッドソールに、このVibram419Cソールを、強力なプロ用接着剤を用いて、熱と圧力を加えながら隙間なく、強固に貼り付けました。その後、シューズ全体のバランスを見ながら、ソールのエッジ(縁)を丁寧に削り、美しく仕上げました。

おわりに:生まれ変わったシューズが、新たなプレーを支える

こうして、F様からお預かりしたMizunoゴルフシューズは、全ての工程を経て、美しく、そして機能的な「スパイクレス・ゴルフシューズ」として生まれ変わりました。

かつては加水分解によって割れ、プレーに支障をきたしていた靴底は、軽量でクッション性に優れたEVAミッドソールと、強力なグリップ力を誇るVibram419Cソールの組み合わせにより、現代のゴルフシューズのトレンドを凌駕するほどの、快適で高性能な一足へと進化を遂げました。

突起部が強く芝を噛むため、スイング時の安定感はスパイクシューズにも劣らず、それでいて歩行時の快適さは飛躍的に向上しています。F様の愛着のあるアッパーはそのままに、足元だけが最新のテクノロジーによってアップデートされたのです。

私たち修理職人は、一足の靴を修理するということは、単にモノを直すだけでなく、その靴が持つ「歴史」と、それを所有するお客様の「想い」を継承することだと考えています。

宮崎県の美しいゴルフコースで、F様がこの新しく生まれ変わった相棒と共に、これまで以上に快適に、そして力強くプレーされ、新たなベストスコアを叩き出す、その瞬間に貢献できたら、これほど嬉しいことはありません。このシューズが、F様のゴルフライフにおける新たな素晴らしい思い出の一部となることを、心より願っております。

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