【修理事例】New Balance 576:時を超えて愛用するための「加水分解」完全復活レポート
2026/02/04
2. 忍び寄る「加水分解」の正体
今回、修理のメインテーマとなったのは**「加水分解」**です。
なぜ加水分解は起きるのか?
New Balanceをはじめとする多くのスニーカーのミッドソールには、クッション性を確保するために「ポリウレタン(PU)」という素材が使われています。ポリウレタンは弾力性に優れ、履き心地を劇的に向上させますが、空気中の水分と反応して分子結合が分解されるという化学的な弱点を持っています。
日本の高温多湿な環境下では、たとえ履かずに箱の中に大切にしまっておいたとしても、5年〜10年でこの劣化は進行します。
ウェッジヒール(ミッドソール): スポンジがボロボロと崩れ、最後には粘り気が出て潰れてしまいます。
樹脂製ヒールカップ: かかとを固定するプラスチックパーツが硬化し、パキパキと割れて剥がれ落ちます。
M様のお手元にあった576も、まさにこの状態にありました。歩くたびにソールが崩れ、かかとのサポートも失われてしまった状態。しかし、アッパーが生きていれば、靴は何度でも蘇ります。
3. 修理プロセスの全貌:職人のこだわり
今回の修理では、単に「直す」だけでなく、**「オリジナルへの敬意」と「今後10年履ける耐久性」**の両立を目指しました。
① 樹脂製ヒールカップから「本革」へのコンバージョン
576の象徴的なパーツの一つが、かかとを外側から支える樹脂製のヒールカップです。純正ではプラスチック素材が使われていますが、一度割れてしまうと接着は不可能です。
ここで私たちが提案し、実施したのが**「本革(レザー)による補強・再現」**です。
素材選び: 耐久性が高く、かつ柔軟性のある厚手のヌメ革やオイルレザーを厳選。アッパーの色味や質感に最も馴染むものをチョイスしました。
成形技術: 直線的な革を、靴の丸みに合わせて立体的に成形します。これを「型入れ」と呼びますが、一針ずつ丁寧に手回しのミシン(あるいは手縫い)でアッパーに縫い付けていきます。
メリット: プラスチックと違い、革は加水分解しません。使い込むほどに足の形に馴染み、傷がついてもメンテナンスで「味」に変えることができます。まさに、ハイテクスニーカーをクラシックな一生モノへとアップデートする工程です。
② ウェッジヒールの「2段構造」再現
New Balanceのソールデザインにおいて、横から見た時の「層(レイヤー)」の美しさは欠かせない要素です。
素材の置換: 劣化しやすいポリウレタンを廃し、今回は**「EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)」と「合成ゴム」**を組み合わせて使用しました。EVAは軽量でクッション性が高く、何より加水分解に極めて強いという特性があります。
2段構造のこだわり: 576のウェッジヒールは、かかとに段差がある独特のデザインです。これを一つの塊で成形するのではなく、硬度の異なる素材を2層に重ねて削り出すことで、オリジナルのシルエットを忠実に再現しました。
グラインダーによる造形: 重ね合わせた素材を、コンマ数ミリ単位で回転砥石(グラインダー)で削り出します。元のフォルムの美しさを損なわないよう、熟練の職人が手感覚でエッジを立てていきます。
③ アウトソールの再接着と仕上げ
最後に、摩耗が少なかったオリジナルのアウトソール(底ゴム)を特殊なプライマー(接着強化剤)を用いて強力に接着します。
接着の科学: スニーカーの修理で最も難しいのが、異素材同士の接着です。革、EVA、ゴム、それぞれに最適な接着剤を使い分け、熱を加えて圧着することで、歩行時の剥がれを徹底的に防ぎます。
結びに代えて
岡山県赤磐市のM様、この度は大切なパートナーであるNew Balance 576をお預けいただき、本当にありがとうございました。
靴修理は、単なる作業ではありません。それはお客様の思い出を繋ぎ、新しい一歩を支えるための儀式だと考えています。もし、あなたの靴箱に「もう履けないけれど、捨てられない」と眠っている一足があれば、ぜひ一度私たちにご相談ください。
技術、素材、そして心を込めて。あなただけの特別な一足を、再び路上の主役へと戻すお手伝いをさせていただきます。
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