【修理の記録】岐阜県K様:ブランドストーンの宿命「加水分解」を乗り越え、Vibram 528Kで新たな命を吹き込む
2025/12/21
1. 突然の崩壊、その正体は「加水分解」
ある日、久しぶりに靴箱から出したブーツの底がベタついたり、歩くたびに黒い粉のように崩れてしまったりした経験はありませんか? それが**「加水分解(かすいぶんかい)」**です。
■ なぜブランドストーンは崩れるのか
ブランドストーンの純正ソールの多くは、軽量でクッション性に優れた「ポリウレタン(PU)」という素材を用いて、アッパーとソールを一体成型(ダイレクトインジェクション製法)しています。 この素材は非常に優秀ですが、空気中の水分と反応して化学分解を起こす性質があります。
湿度の影響: 日本のような高温多湿な環境では、特に進行が早まります。
使用頻度: 意外なことに、履かずに大切に保管している方が、内部のガスが抜けず加水分解が進みやすい傾向にあります。
K様のブーツも、アッパーの革は非常に良い状態で大切にされていたことが伺えましたが、ソールだけは寿命を迎えていました。この状態になると、メーカーでは修理不可とされることも多いのですが、私たち靴修理店では「土台から作り直す」ことで復活が可能です。
2. 徹底的な「解体」と「下地作り」
修理の第一歩は、役目を終えた古いソールを完全に取り除くことです。
加水分解したポリウレタンは、場所によってカチカチに硬化していたり、逆にネバネバした餅のようになっていたりと非常に厄介です。これらをグラインダーで慎重に削り落とし、アッパー(革の部分)の底面を露出させます。
この際、アッパーを傷つけないよう細心の注意を払いながら、新しいソールを接着するための「接着面」を平らに整えていきます。ブランドストーン特有の丸みを帯びたフォルムを崩さないよう、土台を成形するのが職人の腕の見せ所です。
3. 「マッケイ縫い」による構造の再構築
ブランドストーンの元々の製法は、接着剤や成型によってソールを固定する「セメント製法」に近いものですが、修理に際していずみ靴店では**「マッケイ縫い」**という工程を組み込みます。
■ EVAスポンジミッドソールの導入
まずは、クッション性と加工性に優れたEVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)スポンジをミッドソールとして配置します。 これは、最終的なアウトソールを貼るための「背骨」のような役割を果たします。
■ 物理的に固定する安心感
このEVAミッドソールを、専用のミシンでアッパーと直接縫い合わせます(マッケイ縫い)。 単なる接着だけでは、激しい動きや経年劣化でソールが剥がれてしまうリスクがありますが、**「糸で物理的に縫い付ける」**ことによって、剥離の心配が激減し、靴としての強度が飛躍的に向上します。また、これにより次回のソール交換がよりスムーズに行えるようになるというメリットもあります。
4. 理想の履き心地へ:Vibram 528K(New Flex)の選択
K様が今回、新しいアウトソールとして選ばれたのは、イタリアの名門Vibram(ヴィブラム)社の**「Vibram 528K」**です。
■ Vibram 528Kの特徴
このソールは、ヴィブラム社独自の「New Flex(ニューフレックス)」という配合で作られています。
驚異的な軽さ: 見た目のボリューム感からは想像できないほど軽く、長時間歩いても疲れにくいのが特徴です。
優れたクッション性: スポンジ系素材をベースにしているため、アスファルトの衝撃を優しく吸収してくれます。
アウトドアテイストな意匠: 深めの溝(ラグパターン)が配置されており、ブランドストーンの「ワーク・アウトドア」な雰囲気と完璧にマッチします。
グリップ力: 乾いた路面はもちろん、多少の未舗装路でもしっかりと地面を捉えてくれます。
純正ソールの履き心地に敬意を払いつつ、より「軽快で、街歩きにもアウトドアにも強い」仕様へのアップデート。これこそがカスタムリペアの醍醐味です。
5. 完成:再び「相棒」として歩む日々へ
全ての工程を終え、K様のブランドストーンは、加水分解の不安を完全に払拭した姿で生まれ変わりました。
サイドから見た時のシルエットは、EVAミッドソールの厚みを絶妙に調整することで、ブランドストーンらしい重厚感を維持しつつ、手に持った瞬間に「軽い!」と感じていただける仕上がりになりました。
【職人からのメッセージ】
K様、この度は岐阜県から大切なブーツをお預けいただき、誠にありがとうございました。 ポリウレタンの寿命による崩壊はショックな出来事だったかと思いますが、今回導入したEVAとVibram 528Kの組み合わせは、加水分解の心配がほとんどありません。
これまで以上に「ガシガシ」と、日常のあらゆるシーンで履き潰す勢いで楽しんでいただければ幸いです。もし今後、底面が磨り減ったとしても、今度はマッケイ縫いの土台があるため、アウトソールだけの交換も可能です。末永く、K様の足元を支え続ける一足になることを願っております。
6. いずみ靴店からのご案内
「ブランドストーンのソールがベタベタしてきた……」 「お気に入りのサイドゴアブーツだけど、もう捨てなきゃダメかな?」
そう思われている方は、ぜひ一度、岡山県倉敷市の「いずみ靴店」へご相談ください。 今回のK様のように、遠方からの配送修理も承っております。
靴は、ただの消耗品ではありません。共に時間を過ごし、自分の足の形に育った「資産」です。私たちはその資産を守り、さらに価値を高めるお手伝いをさせていただきます。
【今回の修理詳細】
ご依頼主: 岐阜県 K様
対象靴: Blundstone(ブランドストーン)サイドゴアブーツ
主な症状: ソールの加水分解(ポリウレタンの崩壊)
修理内容:
旧ソール除去・底面清掃
EVAスポンジ・ミッドソール作成
マッケイ縫い(アッパーとミッドソールの縫合)
Vibram 528K アウトソール圧着・成形
施工店: いずみ靴店(岡山県倉敷市)
ハッシュタグ: #いずみ靴店 #倉敷市 #岐阜県 #blundstoneboots #ブランドストーン #サイドゴアブーツ #加水分解 #ポリウレタン #EVAスポンジ #マッケイ縫い #vibram528kソール #ヴィブラムソール #靴修理 #オールソール #リペア #愛靴 #サステナブル #ワークブーツ #足元倶楽部

