【修理事例】FootJoy ドライプレミアム|加水分解からの再生と、ミシュランソールによる機能性の進化
2025/12/06
岡山県倉敷市の「いずみ靴店」です。
今回は、遠方である鳥取県のN様より、ゴルフシューズの名門**FootJoy(フットジョイ)のハイエンドモデル「ドライプレミアム(DryJoys Premium)」**の修理をご依頼いただきました。郵送にて大切なお靴をお送りいただき、誠にありがとうございます。
ゴルフシューズは、単に歩くだけではなく、スイング時の強烈な捻れや踏ん張りを支えるギアとしての側面を持っています。そのため、修理には一般的な紳士靴とは異なる視点と、強度を計算した部材選びが求められます。
今回の修理レポートは、多くのゴルファーを悩ませる「加水分解」という現象と、その根本的な解決策、そして純正以上のパフォーマンスを目指したカスタムオールソール交換について、詳しく解説していきます。
1. お預かり時の状態診断:名靴を蝕む「加水分解」の罠
お預かりした「ドライプレミアム」は、クラシックなデザインと高い防水透湿性を兼ね備えた、往年の名作です。アッパーの革の状態は非常に良く、N様がこれまで大切にケアされてきたことが伝わってきます。
しかし、ソール(靴底)に目を向けると、経年による深刻なダメージが見受けられました。
① ハーフソールラバーの崩壊
靴底の前半分を覆うハーフソールラバーが、ボロボロと崩れてしまっています。これは**「加水分解」**と呼ばれる現象です。 純正のソールには、クッション性や成形のしやすさから「塩ビ(PVC)」や「ポリウレタン(PU)」系の素材が使われることが多いのですが、これらの素材は空気中の水分と反応し、年月とともに分子結合が壊れてしまいます。結果として、ゴムが粘土のようにベタついたり、あるいは乾燥したクッキーのように脆く崩れ落ちたりします。
② ヒール(かかと)の摩耗
かかとのゴム部分もすり減りが見られます。ゴルフ特有の傾斜地での歩行や、カート道のアスファルト移動などで消耗するのは避けられない部分です。
今回は、この劣化したソールを一新し、**「もう二度と加水分解に悩まされない靴」**へと進化させる修理プランをご提案いたしました。
2. 分解工程で見えた「隠れたダメージ」
修理の第一歩は、既存のソールを解体することから始まります。 底付けの縫い糸(出し縫い)を専用のナイフで切り、ソールを剥がしていく作業です。ここで、外見からは分からなかった内部の深刻な状態が露呈しました。
内部パーツの破損
ソールを分解してみると、ソフトスパイク(鋲)をねじ込むための**「メスネジ(受け側の金属パーツ)」を固定している樹脂製のプレート**が、粉々に砕け散っていました。
フットジョイのこの年代のモデルによく見られる構造なのですが、スパイクの受け皿となる金属パーツは、ソール内部で一枚の大きな樹脂プレートに埋め込まれる形で固定されています。しかし、この樹脂プレート自体も経年劣化(加水分解)を起こしてしまう素材だったのです。
プレートが粉々になっているということは、**「スパイクをねじ込んでも、受け側が空転してしまい固定できない」あるいは「スイングの衝撃でスパイクごと抜け落ちる」**という致命的な状態を意味します。
単にゴムを貼り替えるだけでは、ゴルフシューズとしての機能を取り戻すことはできません。ここで、修理の方針を「表面的な補修」から「内部構造の再構築」へと切り替える必要があります。
3. いずみ靴店のソリューション:内部構造の再設計
ここからが、靴修理職人の腕の見せ所です。失われた機能を回復させるため、以下の手順で手術を行いました。
メスネジ(スパイク受け)の全交換と固定
粉々になった樹脂プレートは全て撤去し、除去します。その上で、新しい「メスネジ(金属製のスパイク受けパーツ)」を一つひとつ手作業で埋め込んでいく作業に入ります。
従来のプレート式ではなく、独立した金属パーツを使用し、それをソールベースに強固に固定する手法を採ります。これにより、将来的に樹脂が割れてスパイクが効かなくなるリスクを根本から排除します。この工程は、完成後には見えなくなってしまう部分ですが、靴の寿命とプレーの安全性を左右する最も重要なプロセスです。
4. ミシュラン(Michelin)という選択:最強のラバーへ
今回、新しく採用したソール素材は、タイヤメーカーとして世界的に有名な**「ミシュラン(Michelin)」製のハーフソールラバーとヒールラバー**です。
なぜ、ゴルフシューズにミシュランなのか? その理由は明確です。
耐摩耗性: タイヤ技術で培われたコンパウンドは、アスファルトや硬い地面でも減りにくく、長持ちします。
グリップ力: 独特のトレッドパターン(溝)が、芝の上でもしっかりとしたグリップ力を発揮します。
【重要】耐加水分解性: ミシュランのラバーは加水分解を起こさない配合のゴムです。純正の塩ビ素材のように、数年でボロボロになる心配がありません。
「長く、安心して履き続けたい」というN様のご要望に対し、これ以上の回答はない素材です。
5. 精密な加工と組み立て工程
素材が決まれば、いよいよ組み立てです。ここからは0.1ミリ単位の精度が求められます。
Step 1: 下穴開け加工と位置決め
新しいミシュランのラバーソールを、靴の形状に合わせてトリミングします。次に、もっとも神経を使う「スパイク穴」の加工です。 元の靴のスパイク位置と寸分違わぬ位置に、メスネジを通すための下穴を開けます。位置が数ミリでもズレると、スパイクを装着した際にバランスが悪くなったり、見た目の美しさを損なったりします。
Step 2: ボンド接着と圧着
ソールベース(本体側)に新しいメスネジをセットし、下穴加工を施したミシュランラバーを強力なボンドで貼り合わせます。専用の圧着機でしっかりとプレスし、一体化させます。
Step 3: 出し縫い(底付け縫い)
接着だけでは、ゴルフの激しい動き(スイング時の横方向のG)に耐えられず、剥がれてくるリスクがあります。そこで、**「出し縫い」**を行います。 専用のミシンを使い、アッパー、ウェルト、そして新しいソールを極太の糸で縫い合わせます。これにより、物理的に剥離しない強固な構造が完成します。純正と同様、あるいはそれ以上の強度を持たせる工程です。
Step 4: ヒールの加工と取り付け
かかと部分にも、同じくミシュラン製のヒールラバーを使用します。こちらも前足部と同様に、スパイク用のメスネジを取り付けるための穴あけ加工を行います。 ヒールの高さや角度(ピッチ)は、アドレス時の姿勢に直結するため、元のバランスを崩さないよう慎重に削り込み、調整して取り付けます。
6. 完成:蘇ったドライプレミアム
最後に、ソフトスパイク(鋲)がスムーズに装着できるか、全ての穴でテストを行います。「カチッ」と小気味よい音とともにスパイクが収まることを確認。
仕上げに、コバ(ソールの側面)を美しく磨き上げ、アッパーの革に栄養クリームを入れて磨きをかけます。
完成した姿は、単なる修理品ではありません。 アッパーのクラシックな美しさはそのままに、ソールには最新のミシュランラバーを装備し、内部には強固な金属パーツが埋め込まれた**「ハイブリッド・カスタムシューズ」**へと生まれ変わりました。
N様へのお知らせ
鳥取県のN様、この度は修理のご用命ありがとうございました。 お手元のドライプレミアムは、もう加水分解に怯える必要はありません。ミシュランソールの耐久性とグリップ力で、これからのラウンドを力強くサポートしてくれるはずです。
履き心地やグリップ感など、純正時との違いをぜひフィールドで体感してみてください。
いずみ靴店からのメッセージ
「気に入っていたゴルフシューズの底が抜けてしまった」 「久しぶりに箱から出したらボロボロになっていた」
そんな経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか? 多くのメーカーでは、ソールが劣化すると「寿命」として買い替えを勧められますが、アッパー(革)が良い状態であれば、今回のようにソールを作り直すことで、さらに何年も履き続けることが可能です。
特に、足に馴染んだ革靴の履き心地は、新品には代えがたい価値があります。
当店では、FootJoyに限らず、様々なメーカーのゴルフシューズ修理に対応しております。全国からの郵送修理も承っておりますので、諦めて捨てる前に、ぜひ一度ご相談ください。
職人が一足一足、靴の状態に合わせた最適な修理プランをご提案いたします。
【修理内容まとめ】
対象: FootJoy ドライプレミアム(FootJoy DryJoys Premium)
症状: ハーフソール・内部樹脂パーツの加水分解、ヒール摩耗
修理内容:
ソール分解・内部クリーニング
スパイク用メスネジ(金属パーツ)全交換・埋め込み加工
ハーフソール交換(ミシュラン製ラバー使用・加水分解対策済み)
ヒールラバー交換(ミシュラン製ラバー使用)
出し縫い(縫い直し)
使用部材: Michelin(ミシュラン)ラバーソール&ヒール
いずみ靴店 〒710-00xx 岡山県倉敷市... [電話番号] [ウェブサイトURL] [SNSアカウント] #いずみ靴店 #倉敷市 #鳥取県 #フットジョイ #FootJoy #ドライプレミアム #ゴルフシューズ修理 #加水分解 #ハーフソールラバー #ミシュラン #Michelin #かかとゴム交換 #メスネジ交換 #靴修理 #ShoeRepair #GolfShoes
