劇的再生】倉敷市・T様 ASICSサッカーボールシューズ:加水分解からの復活、そして街履きカスタムへの挑戦
2026/01/04
倉敷の路地裏に店を構える「いずみ靴店」です。 今回、地元のT様からお預かりしたのは、ある意味で「靴修理職人への挑戦状」とも言える一足でした。
それは、往年の名作ASICS(アシックス)のサッカーボールシューズ。 その独特のデザインと質感で一世を風靡したモデルですが、お持ち込みいただいた際、その靴は「歩く」という本来の機能を完全に失っていました。
しかし、T様の「これをまた履きたい。今度は普段履きのスニーカーとして、倉敷の街を一緒に歩きたい」という熱い想いに応えるべく、当店の持てる技術をすべて注ぎ込んだ「再生とカスタム」の全記録をここに記します。
1. 診断:加水分解という「靴の宿命」との対峙
お預かりしたアシックスの状態は、非常に深刻でした。
ソールの真っ二つの破断
まず目に飛び込んできたのは、ソールが文字通り**「真っ二つ」に割れている姿でした。これは、ポリウレタン素材が水分と反応してボロボロになる「加水分解」**という現象です。 ウレタンソールはクッション性に優れる反面、製造から時間が経過すると、たとえ履いていなくても内部から崩壊が始まります。T様の靴は、まさにその限界を迎えていました。
中底(インソール)の崩壊
さらに深刻だったのは、外側からは見えない「中底」の状態です。 ソールを分解してみると、靴の骨格となる中底までが劣化し、亀裂だらけになっていました。剥がした跡には穴が開き、本来であれば「修理不可」と判断されてもおかしくない状態です。
しかし、アッパー(革の部分)は、T様の手入れが行き届いていたおかげで、現役時代の輝きを保っていました。 「底がダメなら、作り直せばいい。」 ここから、いずみ靴店の真骨頂である「中底再建」からのオールソール交換が始まりました。
2. 工程①:靴の心臓部「本革中底」の再建
スニーカーの修理において、中底まで手を入れるケースは稀です。しかし、今回は末長く履いていただくために、妥協のない処置を選びました。
ボロボロになった元の素材をすべて取り除き、**「本革」**を使用して中底をゼロから再構築しました。 本革を中底に使うメリットは、圧倒的な耐久性と、履き込むほどに足の形に馴染む「沈み込み」にあります。厚みのある良質なヌメ革をカットし、靴のラスト(型)に合わせて成形していく作業。これは、スニーカーの修理というよりも、本格的な革靴を誂える工程に近いものです。
穴が開いたようになっていた土台が、強固な本革によって再び生命力を宿しました。
3. 工程②:スニーカー仕様へのカスタム設計
今回のミッションは、単なる復元ではなく**「普段履きのスニーカーへのコンバート」**です。競技用の設計から、街歩きに最適なスペックへと変更を加えます。
EVAスポンジによるミッドソールの構築
加水分解の心配がほとんどないEVAスポンジを採用し、ミッドソールを積み上げていきました。 EVAは軽量で、クッション性が持続するのが特徴です。
ウェッジソール形状へのこだわり
T様のご希望もあり、ヒール部分を少し高く設定した**「ウェッジソール仕様」**に設計しました。 これにより、歩行時の重心移動がスムーズになり、立ち仕事や長時間の散歩でも疲れにくい構造になります。また、見た目にもボリューム感が出て、現代のファッションに合わせやすいシルエットへと昇華させました。
5. 仕上げ:Vibram 477B 黒。サッカーの記憶をデザインに
そして、最終的なアウトソールに選んだのが、**Vibram 477B(通称:カサブランカ・ソール)**のブラックです。
このソールを選んだのには、明確な理由があります。 Vibram 477Bの特徴は、その表面に並んだ**「突起(イボイボ)」**です。このデザインが、かつてのサッカー用トレーニングシューズや、サッカーボールのディテールを彷彿とさせます。
グリップ力: 街中のアスファルトはもちろん、雨の日の路面でもしっかりと地面を掴みます。
耐摩耗性: 世界のビブラム社が誇る高密度ラバーにより、驚異的な長寿命を誇ります。
デザインの調和: アシックスのアッパーが持つスポーティーな印象を損なわず、むしろ「大人のスニーカー」としての高級感をプラスしてくれました。
サイドのエッジを丁寧にグラインダーで整え、アッパーとの境界線をミリ単位で美しく仕上げて、ついに完成です。
7. 「いずみ靴店」から、すべての靴愛好家へ
今回の修理は、確かに手間も時間もかかる大掛かりなものでした。 しかし、私たちは考えます。 「加水分解したから捨てよう」 そう決める前に、一度だけその靴との思い出を振り返ってみてほしいのです。
初めてその靴を履いた日のこと。 その靴で行った場所のこと。 その靴が支えてくれた足取りのこと。
メーカーが「修理不能」と断った靴でも、構造を理解し、素材を選び抜き、技術を駆使すれば、再び道の上に戻すことができるかもしれません。 今回のASICSのように、競技用としての役割を終えた靴に「街履き」という新しい役割を与えてあげること。それもまた、これからの時代の靴との付き合い方ではないでしょうか。
倉敷の地で、一足一足の靴と真剣に向き合う。 それが、いずみ靴店の誇りです。
修理スペックまとめ
モデル: ASICS サッカーボールシューズ
主な症状: ソール全体の加水分解、中底の破断
処置内容: 1. 劣化したソール・中底の全除去 2. 本革中底の新規作成・再建 3. EVAスポンジによるミッドソール構築(ウェッジ型) 4. マッケイ縫いによる構造強化 5. **Vibram 477B(黒)**によるオールソール仕上げ
T様、この度は大切な一足を託していただき、誠にありがとうございました。 新しくなったこの靴で、また倉敷の素敵な街並みをたくさん歩いてください!
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