【修理事例】New Balance 576 ヒールカップ加水分解から「本革カスタム」への復活
2025/12/31
1. はじめに:不朽の名作「576」と、逃れられない宿命
ニューバランスの「576」といえば、1988年の誕生以来、ブランドの顔として君臨し続ける傑作モデルです。特にその無骨なシルエットと、オフロードでも抜群の安定感を誇るクッション性は、多くのファンを魅了してきました。
しかし、長年愛用する中で避けて通れないのが**「樹脂パーツの加水分解」**です。 今回、兵庫県のK様よりお預かりした一足も、まさにその状態にありました。ヒール(踵)の外側を支える樹脂製のヒールカップが、経年劣化によってひび割れ、指で触れるとポロポロと崩れてしまう状態。この状態になると、見た目が損なわれるだけでなく、本来のホールド機能も果たせなくなってしまいます。
2. 加水分解という課題:なぜ樹脂ではなく「本革」なのか
通常、メーカー修理であればオリジナルに近い樹脂パーツへの交換が理想ですが、残念ながらこのパーツ単体での供給は一般の修理店にはありません。また、同じような合成樹脂で作り直しても、数年後には再び加水分解が起きるリスクが付きまといます。
そこで、いずみ靴店が提案したのが**「本革による代用・再構築」**です。
耐久性: 本革は加水分解を起こしません。手入れ次第で10年、20年と持ちます。
風合い: 履き込むほどに足に馴染み、エイジング(経年変化)を楽しむことができます。
意匠性: 樹脂にはない高級感が漂い、世界に一つだけの「カスタム仕様」へと進化します。
3. 修理プロセスの裏側:職人の手仕事
今回の修理は、単に革を貼るだけの作業ではありません。靴の構造を理解し、元のデザインを損なわない繊細な工程が必要とされます。
① 型取りと裁断
まず、崩れてしまった樹脂パーツを丁寧に取り除きます。その跡から正確な型を採り、新しく使用する本革を切り出します。今回は576の堅牢なイメージに合わせ、質感・厚みともに最適な牛革を厳選しました。
② スキ加工(漉き)
革の縁をそのまま縫い付けると、段差ができてしまい足当たりが悪くなったり、見た目が野暮ったくなったりします。そのため、革の端を薄く削る「漉き(すき)」という作業をコンマ数ミリ単位で行い、本体と滑らかに馴染むよう調整します。
③ 八方ミシンによる縫い付け
ここが技術の真骨頂です。靴の修理には**「八方(はっぽう)ミシン」**という特殊なミシンを使用します。 通常のミシンは手前にしか進みませんが、八方ミシンはその名の通り、360度どの方向にも送り歯を向けて縫うことができます。
スニーカーのヒール部分は非常に立体的なカーブを描いており、通常のミシンでは物理的に刃が入りません。八方ミシンの細いアームを靴の中に差し込み、元の縫い穴を追いかけながら一針ずつ丁寧に縫い付けていくことで、強固かつ美しい仕上がりを実現しました。
4. 完成:新たな命が宿った576
完成した576は、元のスポーティーな印象を維持しつつ、ヒール部分に本革特有の重厚感が加わりました。樹脂パーツの時は「壊れるのを待つ」状態でしたが、本革になったことで「使い込む楽しみ」が生まれたといえます。
兵庫県からわざわざ当店を信頼して送り出してくださったK様。これからもこの576と共に、素敵な街歩きを楽しんでいただけることを確信しております。
修理を検討されている皆様へ
いずみ靴店では、加水分解で諦めてしまいそうなスニーカーに、再び歩く喜びを吹き込む修理を得意としております。 「もう履けない」と下駄箱に眠らせている大切な一足があれば、ぜひ一度ご相談ください。岡山県倉敷市の工房にて、一足一足真心を込めて修理させていただきます。
【店舗情報・SNS】
店舗名: いずみ靴店(岡山県倉敷市)
対応内容: 靴修理、スニーカーカスタム、加水分解対策
#いずみ靴店 #倉敷市 #兵庫県 #NewBalance #ニューバランス #576 #ヒールカップ #加水分解 #本革 #八方ミシン #スニーカー修理 #サステナブルファッション #職人技

