いずみ靴店

福岡県 H様 adidas スタン・スミス ゴルフシューズ オールソール交換修理

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福岡県 H様 adidas スタン・スミス ゴルフシューズ オールソール交換修理

福岡県 H様 adidas スタン・スミス ゴルフシューズ オールソール交換修理

2025/12/03

福岡県にお住まいのH様よりご依頼いただきました、adidas(アディダス)スタンスミス・ゴルフシューズのオールソール交換修理について、その工程とこだわりを詳しくご紹介いたします。

ご依頼内容は、単なる修理を超えた「カスタム・リメイク」に近い大掛かりなプロジェクトとなりました。愛着のあるシューズを再びフィールドで輝かせるための、職人の思考と技術のすべてをここに記します。

永遠の定番、スタンスミスがフィールドへ

アディダスの「スタンスミス」といえば、世界で最も売れたスニーカーとしてギネスにも認定されている、説明不要の名作です。そのシンプルで完成されたデザインは、テニスコートからストリートへ、そして現在はゴルフコースへと活躍の場を広げています。

今回お預かりしたのは、そのゴルフ仕様モデル。アッパーのレザーの質感、象徴的なパンチング、そしてタンに描かれたスタンスミス氏の肖像画はそのままに、ソールがゴルフ用にアレンジされているモデルです。

しかし、ゴルフというスポーツは足元に想像以上の負荷がかかるもの。スイング時の強烈な捻転、傾斜地での踏ん張り、長距離の歩行。これらにより、オリジナルのソールには穴が開き、限界を迎えていました。

直面した「カップソール」の壁

修理に取り掛かるにあたり、最初に直面したのが**「構造上の難題」**です。

このモデルのオリジナルソールは、アッパー(靴本体)を包み込むように接着された「カップソール」という形状をしています。さらに、独特のパターンを持つスパイクレスソールでした。

一般的な修理店であれば、「同じソールが入手できないため修理不可」と断られてしまうケースも少なくありません。なぜなら、メーカー純正のカップソール部品は供給されないからです。

しかし、いずみ靴店では、そこで諦めることはありません。「元通りに戻せないなら、元よりも良くしてしまえばいい」という発想の転換を行います。

職人の解決策:唯一無二のカスタム・オールソール

H様のご要望に応え、かつゴルフシューズとしての機能を最大限に高めるために、今回は以下の4つのステップで再構築を行いました。

側面処理: 本革による跡形隠しとオパンケ処理

土台形成: EVAスポンジによるウェッジソール作成

縫製: マッケイ縫いによる堅牢な固定

アウトソール: Vibram 419Cの採用

それぞれの工程について、技術的な詳細を解説します。

1. 側面処理:美観と強度の両立

カップソールを取り外すと、アッパーの側面には接着剤の跡や、元のソールの縁が当たっていたラインがくっきりと残ってしまいます。これをそのままにして新しいソールを貼ると、見た目が非常に悪くなってしまいます。

そこで今回は、その跡形を隠すように、アッパーの周囲に**本革の帯(マッドガード的な役割)**を巻き付け、縫い付ける処理を施しました。

これは単なる目隠しではありません。アッパーと新しいソールユニットをつなぐ重要な「のりしろ」の役割も果たします。デザイン的にも、本革を使用することで高級感が増し、スタンスミスのクラシックな雰囲気を損なうことなく、むしろ大人のギアとしての渋みを加えることができました。

2. ミッドソール:マッケイ縫いによる結束

ゴルフシューズで最も恐れるべきトラブルは、プレイ中の「ソール剥がれ」です。強力なスイングの遠心力に耐えるため、単なる接着のみで仕上げることはリスクがあります。

そこで、靴の内部からソールまでを貫通させて縫い合わせる**「マッケイ縫い」**を採用しました。

マッケイ製法の特徴: 屈曲性が良く、足の動きに靴がしっかりついてくるため、スイング時のフットワークを妨げません。かつ、物理的に糸で縫い付けているため、底剥がれのリスクを極限まで低減できます。

3. 中板・ヒール:EVAスポンジによるウェッジソール

今回、ソールの土台(ミッドソール~ヒール)にはEVAスポンジを使用しました。

軽量性: レザーやラバーの塊で作ると重くなりすぎますが、EVAスポンジは非常に軽量です。18ホール歩いても疲れにくい靴に仕上がります。

クッション性: アスファルトや芝生からの衝撃を吸収し、膝や腰への負担を和らげます。

また、形状はフラットなスニーカータイプではなく、かかと部分に少し厚みを持たせた**「ウェッジソール」**に成形しました。これにより、アドレス時の前傾姿勢がとりやすくなり、スイングの安定感向上を狙っています。

4. アウトソール:Vibram 419Cの採用

そして、地面と接する最も重要なパーツには、イタリア・ヴィブラム社製の**「Vibram #419C」**を採用しました。

このソールを選んだ理由は明確です。

スパイクレス専用設計: 419Cは、街履き用ではなく、ゴルフやデッキシューズなどグリップ力が求められるシーン向けに開発されたソールです。

特殊な配合: 粘り気のあるゴム質で、濡れた芝の上でもしっかりと地面を噛みます。

デザイン: 細かい波状のサイプ(切れ込み)とブロックパターンが組み合わされており、見た目は非常にスマートで大人しい印象ですが、性能は「狼」です。

スタンスミスのスマートなシルエットを崩さず、それでいてプロ仕様に近いグリップ力を発揮する、今回のカスタムに最適なソールです。

仕上がりと今後の展望

修理を終えたスタンスミス・ゴルフは、裏から見ると、元の派手なパターンから一変し、シックで落ち着いた表情に生まれ変わりました。しかし、その中身は別物です。

グリップ力: Vibram 419Cの食いつきにより、ドライバーショット時の足元の滑りを強力に抑制します。

安定感: EVAウェッジソールとマッケイ縫いによる一体感が、スイングの土台を支えます。

耐久性: 側面の革巻き処理と縫い付けにより、長く愛用できるタフな仕様になりました。

「見た目は大人しく、機能はアグレッシブに」

まさに、上級者の道具と呼ぶにふさわしい仕上がりになったと自負しております。

福岡県のH様へ

この度は遠方より、大切なお靴をお任せいただきありがとうございました。 穴が開いて履けなくなってしまった靴が、こうして新たな命を吹き込まれ、再びH様の足元で活躍できることを思うと、靴修理職人としてこれ以上の喜びはありません。

新しくなったソールは、最初は少し硬く感じるかもしれませんが、履き込むごとにEVAスポンジが足の形に馴染み、唯一無二のフィット感を生み出してくれるはずです。

滑り止め効果は抜群ですので、傾斜地やラフからのショットでも安心して振り抜いていただけると思います。このシューズが、H様のスコアアップに少しでも貢献できれば幸いです。

いずみ靴店では、今回のような「部品がない」と言われる靴の修理も、素材の選定から工法の工夫まで、あらゆる引き出しを使って解決策をご提案いたします。

「もう履けないかも」と諦める前に、ぜひ一度ご相談ください。一足一足、その靴に最適な「再生の物語」を紡ぎ出します。

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