いずみ靴店

北海道からの信頼を足元に込めて。フットジョイ ドライプレミアム、加水分解を乗り越えた再生の物語。

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北海道からの信頼を足元に込めて。フットジョイ ドライプレミアム、加水分解を乗り越えた再生の物語。

北海道からの信頼を足元に込めて。フットジョイ ドライプレミアム、加水分解を乗り越えた再生の物語。

2025/08/27

北海道からの信頼を足元に込めて。フットジョイ ドライプレミアム、加水分解を乗り越えた再生の物語。

岡山県倉敷市玉島に暖簾を掲げる、小さな靴の工房「いずみ靴店」。

今日もまた、全国各地から修理を待ち望む靴たちが、一足また一足とこの場所へ届けられます。その多くは、持ち主の足となり、幾多の物語を刻んできた、かけがえのない相棒たちです。今回、ご紹介するのは、はるか北の大地、北海道にお住まいのF様からお預かりした一足。遠い道のりを経て、私たちのもとへやってきたのは、ゴルフシューズの最高峰ブランド、FootJoy(フットジョイ)の「DRI Premium」でした。

箱を開けた瞬間、その威厳のある佇まいに、長年愛用されてきたであろう歴史と、丁寧に使われてきた持ち主の愛情が伝わってきました。ゴルフというスポーツは、繊細な足元の感覚がパフォーマンスを大きく左右します。だからこそ、このフットジョイ ドライプレミアムは、F様にとって単なる道具ではなく、最高のパフォーマンスを支えてくれる、信頼のおけるパートナーだったに違いありません。

しかし、そのパートナーは、静かに、そして容赦なく進行する「ある病」に侵されていました。それが、今回の修理の核心となる「加水分解」です。

見えない敵、「加水分解」の脅威

加水分解とは、靴のソールや接着剤に用いられるポリウレタンなどの合成樹脂が、空気中の水分(湿度)と化学反応を起こし、徐々に劣化していく現象です。特に、日本の高温多湿な環境では、その進行は避けられません。製造されてから年月が経つと、見た目はきれいでも、内部から脆くなり、ある日突然、まるで豆腐のようにボロボロと崩れ始めるのです。

F様からお預かりしたこのドライプレミアムのハーフソールラバーも、まさにその状態でした。一見すると、表面的な擦り減りこそ少ないものの、よく見ると無数の細かい亀裂が、まるで古びた地図の等高線のように深く刻まれています。これは、すでに内部の劣化が限界に達し、わずかな衝撃や負荷で崩壊寸前であることを示しています。この状態でゴルフのプレーを続ければ、スイングの途中でソールが剥がれてしまい、せっかくのラウンドが台無しになってしまうでしょう。F様も、この亀裂に気づき、不安を抱えながらも、この愛着ある靴を何とか再生させたいという一心で、遠く離れた私たちに託してくださったのです。

解体、そして明らかになった「隠された病巣」

まずは、劣化しきったハーフソールを、本体から丁寧に剥がしていく作業から始めます。長年の経験から、この種のソールは剥がすというより、崩れ落ちていく感覚に近いことを知っています。細心の注意を払い、靴本体を傷つけないよう、少しずつ、まるで化石の発掘作業のように、慎重に劣化したソールを取り除いていきます。

パキリ、パキリ。

まるで乾いた葉っぱが砕けるような、乾いた音が工房に響きます。塩ビ系素材のハーフソールは、私たちの予想以上に劣化が進んでおり、ほんの少し力を加えただけで、粉々に砕け散ってしまいました。その姿は、長年の酷使に耐え、そして時間という名の試練に打ち勝つことができなかった、ある種の無念さを物語っているようにも感じられます。

ハーフソールを完全に剥がし終えたところで、私たちは新たな問題に直面しました。それは、靴の裏側に埋め込まれた、ソフトスパイクのメスネジを固定している樹脂製のプレートでした。ハーフソールに隠れて見えなかったこのプレートもまた、同様に加水分解を起こし、ひび割れていました。このまま新しいハーフソールを貼っても、ソフトスパイクの脱着時に力が加われば、再びプレートが割れてしまい、修理の意味がなくなってしまいます。

単に表面的な修理を行うだけでは、お客様の期待には応えられません。私たちはF様と連絡を取り、この隠された問題と、根本的な解決策としてプレートの交換が必要であることをご説明しました。お客様は快くこの提案を受け入れてくださり、私たちはこの靴を完全に蘇らせるための、次なるステップへと進むことになりました。

究極の素材と、独立型メスネジの導入

新たなハーフソールラバーには、私たちが全幅の信頼を置いている、ミシュラン製の合成ゴム製ソールを使用することにしました。車のタイヤで世界的に有名なミシュランが、靴用に開発したこのラバーは、その類まれなグリップ力と耐久性で知られています。そして何より、加水分解という厄介な問題に強いという特性を持っています。これにより、F様は今後、安心してこの靴を履き続けることができるのです。

修理のもう一つの肝となるのは、メスネジの交換です。今回は、元のプレート一体型ではなく、一つ一つ独立したタイプのメスネジを打ち込むことにしました。これにより、一か所が破損しても全体に影響が及ぶことがなく、万が一、将来的にネジ部分に不具合が生じても、その部分だけをピンポイントで交換することが可能になります。

まずは、新しいハーフソールに、ソフトスパイク用のメスネジを打ち込むための精密な穴を開けていきます。この穴の位置が少しでもずれると、ソフトスパイクがまっすぐ装着できなくなってしまうため、長年の経験と勘が問われる、非常に繊細な作業です。開けた穴に、新しい独立タイプのメスネジを一つずつ丁寧に打ち込み、しっかりと固定されていることを確認します。最後に、お客様が新しいソフトスパイクを問題なく取り付けられることを確認し、この工程は完了です。

いずみ靴店の魂、「出し縫い」という名の命綱

いよいよ、新しいハーフソールを本体に接着する工程です。特殊な接着剤を両面に均一に塗り、しっかりと圧着していきます。接着剤が完全に硬化したら、いよいよ、いずみ靴店の修理の真髄とも言える作業、**「出し縫い」**を行います。

出し縫いとは、靴底とアッパー(甲革)を、専用の太い糸で手作業で縫い合わせる、伝統的な靴修理の技術です。現代の靴の多くは接着剤のみでソールが固定されているため、加水分解などで接着剤が劣化すると、簡単に剥がれてしまいます。しかし、この出し縫いを施すことで、たとえ接着剤が劣化しても、糸がソールをしっかりと本体に結びつけ、靴の寿命を飛躍的に延ばすことができます。

私たちは、専用の針と糸を使い、一針一針、心を込めて縫い進めていきます。力強く、それでいて美しい縫い目は、まさに職人の魂が宿った証です。まるで、この靴に新たな命を吹き込むかのように、一針、また一針と縫い進め、ソールの全周を縫い上げます。

ゴリ、ゴリ、ゴリ。

針が革を貫く音、そして糸が革を締める音が、心地よいリズムとなって工房に響き渡ります。この音こそが、私たちがお客様に安心をお届けしている、何よりの証明なのです。

新たなスタート、そして未来への一歩

すべての工程を終え、生まれ変わったフットジョイ ドライプレミアムが、私たちの目の前に姿を現しました。

加水分解でボロボロだった塩ビのハーフソールは、しなやかで力強いミシュラン製のラバーに変わり、ソールの全周には、魂がこもった出し縫いの糸が、まるで新しい命綱のように巡っています。ソフトスパイクを取り付けた際の、カチリとした確かな感触が、この靴が再び最高のパフォーマンスを発揮できる状態になったことを物語っていました。

私たちは、この生まれ変わったドライプレミアムを、丁寧に梱包し、遠く離れた北海道のF様のもとへ発送しました。この靴が再びF様の足となり、大自然の中で力強いショットを放つ日を想像すると、胸に熱いものがこみ上げてきます。

修理を越えた、かけがえのない価値

今回のフットジョイの修理は、単なる破損した靴の修復ではありませんでした。それは、お客様が大切にされてきた道具への愛着、そして、それを使い続けることへの想いを、職人の技術と情熱で再びつなぎ直す作業だったのです。

「加水分解」という避けられない劣化は、どんなに高価で素晴らしい靴であっても、いつかは訪れる運命です。しかし、適切な知識と確かな技術があれば、その靴の寿命を何倍にも延ばし、再び輝きを放たせることが可能です。

いずみ靴店は、岡山県倉敷市にありますが、インターネットを通じて、北海道をはじめ、全国のお客様からのご依頼を承っています。もし、あなたの靴が加水分解でボロボロになってしまったり、大切な靴の修理でお困りでしたら、ぜひ一度、私たちにご相談ください。

一足一足に込められたお客様の物語を大切にしながら、私たちは今日も、この場所で、靴たちに新たな命を吹き込む作業を続けています。

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